岡田まりゑ

―今日は東京都武蔵野市吉祥寺に来ました。こちらは、メディアの調査による「関東の住みたい街ランキング」でもおおむね上位で、若者が多い瀟洒な街というイメージがあります。

岡田 少し前まではそうでしたけど、今はどうでしょう、普通の街になってきたような気もします。

ー今の話題はあくまでイメージですが、情報との接し方、捉え方で普段から気をつけていることはありますか。 

岡田 たとえば、地上波のテレビ番組は見ないですね。若い人はもっと見ないんじゃないですか?ウェブですと、SNSは仕事の一環として情報発信などはしますが……見ていると、知らなくてもいい情報も多いなぁということもありますね。自分が発信するときも、どういうことを発信するべきかということはとても吟味しています。ただ、昔と違ってSNSをきっかけに新たな仕事も生まれることもあるので、否定ばかりは出来ないです。あと、他の作家さんの作品をホームページなどで拝見して常日頃感じることは、会場に足を運んで実物を見に行った方が断然「良い」ということです。ウェブ越しですと、作品の良さがあまり出ていないケースもありますね。

―作品の良さという点で、岡田さんの作風では、一色多版刷りによるマチエール(※ 作品表面の肌合い。用いられている絵具の材質感や厚塗、薄塗りなど絵具の層の違いから受ける重厚さや滑らかさ)が特徴的です。

岡田 マチエールは実物をぜひ見ていただきたいです。最近は、ウェブ上で容易に作品を発信できる傾向にあるので、(それに反して)マチエールをより強調した作品を制作しています。違いを表現したいじゃないですか、ディスプレイ越しと本物の違いを。

―意外と反骨的なところがおありですよね。

岡田 (制作で)現状維持はあり得ないと常々思っています。現状を保とうと思ったら、今していることを常に新しくていかないと、という気持ちがあります。何もしないでいると劣化してしまうような……その辺りで、ここ2、3年は悩みも多かったですね。作家業や画業に携わる方は、毎日描いてしまう、気がつくと描いてしまうタイプの方が多いです。でも、私はそうではなくて、自分の気持ちの高ぶりが高まって決心がついたときに描くタイプなので、(気持ちを高めることに)日頃からの精進が必要です。エネルギーが集まったときに発散するタイプですね。年中それは無理なので、高めるためにヨガに通ったり、展示会を観に行ったり、考えて勉強をして、それを繰り返しては気持ちを整えています。ですので、天才肌の芸術家ではないです。

―制作のモチーフについてですが、岡田さんの作中には舟や家、椅子が多いような気がします。ルーツはどこかにあるのでしょうか。

岡田 幼い頃、具合が悪くて家で寝ている時間が長い時期がありました。昭和の昔の家でしたので、天井は杢目でした。寝ながらその模様を眺めて、静物画になぞらえてみたり、旅をするように空想をして、心の糧にしていました。体は動けないんだけど、どこかに行っているようでうれしかったですね。おこがましいけど、自分の作品は誰かにとってそういうものでありたいです。心が少し和らいだり、気分転換出来る作品であればいいなと思っています。

―最後に、岡田さんの好きな場所ということで、武蔵野八幡宮に行きましょう。

岡田 あまり外に出掛けるタイプではないのですが、武蔵野八幡宮にはよく行きます。林のように木がたくさん並んでいるので、日頃のリフレッシュにはちょうど良いです。もっとたくさん自然に触れたいときは、井の頭公園に出掛けますね。(【下写真】境内に立つケヤキの杢目を見ながら)こんな緑青の色合いの作品を作れたら、最高でしょうね。


しじま(2012年/エッチング/ 59㎝×84.5㎝)

[略歴]
岡田 まりゑ(おかだ まりえ)
横浜に生まれる
武蔵野美術大学別科実専科油絵専修研究過程卒業
Exhibition 1980
日本版画協会展(以降2014年まで毎年出品)
1991 日本具象版画展〔優秀賞〕
1995 第63回日本版画協会展〔準会員賞〕 第29 回文化庁現代美術展
1996 第2回国際ミニプリントビエンナーレ〔受賞〕(ビルニス/リトアニア)第6回ミヤコ版画賞展〔大阪画商相互会賞〕
1997 第1回ミニプリントビエンナーレ(クルージ/ルーマニア)〔受賞〕
2003 INTERNATIONAL EXPERIMENTAL ENGRAVING BIENNIAL (ルーマニア)
2008 第4回山本鼎版画大賞展 〈サクラクレパス賞受賞〉
2011 Splitgraphic International Graphic Art Biennial (クロアチア・招待作家)
2012 ノボシビルスク国際版画トリエンナーレ(ロシア,招待作家)
2015 日本の現代版画展 (ドブロヴニク近代美術館/クロアチア) PULUS-ULTRA2015 (スパイラルガーデン/東京)
2016 Splitgraphic International Graphic Art Biennial (クロアチア・招待作家) Tribuna graphic 2016 (Cluji napoca art museum/ルーマニア)
アワガミ国際ミニプリント展2017
2017 19th International Print Biennial Varna 2017 (Varna City Art Gallery/ブルガリア)

個展:
ギャラリーHiro&Y/クレイギャラリー/ギャラリーHIBELL/ギャラリーJin/オフィスIIDA/ギャラリーOII/ Zaギャラリー/ザ.トールマン コレクション/養清堂画廊/ギャルリ アンヴォル-北海道/Watermark arts & crafts/日野画廊−愛媛/ギャラリー美游館−大阪/由美画廊−静岡/ギャラリーキャッツ愛−富山/パレット画廊—山口/木星舎—愛媛/アートギャラリータピエス-兵庫/ギャラリーアルトラ−石川/眉峰画廊 -徳島・/アートガーデン- 岡山/みさき画廊-大分/羊画廊-新潟/ヒロ画廊-和歌山/画廊憩ひ.-佐賀 など
収蔵:
佐喜真美術館(沖縄)
ニューサウスウェールズ州立美術 (オーストラリア)
クルージ国立美術館(ルーマニア), ティコティン美術館(イスラエル)
グラフィクセンターギャラリー (リトアニア ),ノボシビルスク州立美術館(ロシア)

森永豊

吹きガラス作家・森永豊さんのヒロ画廊での個展に際し、熊本県八代市にある「珈琲と画廊 珈琲店ミック」で開催された森永豊・冬の硝子展【2018年1月18日(木)ー 1月30日(火)】を訪れました。

ー珈琲店ミックの店内、とても開放感がありますよね。

森永 もともと呉服屋さんだったんだけど、50年前にマスターの出水晃(いづみ・あきら)さんが喫茶店に改装されてね。地方紙の熊本日日新聞では、2013年にマスターの一代記「ようこそミックへ」が連載されたり、八代市でも有名なマスターだよ。

ーお世辞では無くて、森永さんのノスタルジックな作風とミックさんの気骨のある昔ながらの雰囲気がマッチされていますよね。

森永 合ってる?確かにね(笑)。ミックさんは2週間おきに展示会をされていて、次は絵画展みたい。

ーここでは定期的に展示会を?

森永 今回で4回目だね。最初は夏にしてもらっていたのだけど、最近は私がありがたいことに、各地の民芸店やギャラリーからの注文が夏に多いので、今回は冬にしてもらって。

ー八代市を流れる球磨川はヒロ画廊の近くを流れる紀の川と(流域面積と延長が)同
じぐらいみたいです。

森永 そうそう、球磨川は大きくて本当にきれいだね。今度時間があれば、市内の干潟も広くて気持ちいいから見に行くといいよ。球磨川には、荒瀬ダムっていうのが60年前に造られたのだけど、2012年に日本で初めてダムを撤去する工事が始まってね。今は、川の生態系も少しずつ回復しているみたい。単純にダムがあれば、ダム底に泥が溜まって水質が悪くなるでしょ?ダムを解体したことで水の流れがよくなって、鮎や水中生物が蘇ってね。ミックのマスターはその撤去運動にも従事されて、かなりの社会派で。

ーミックさんでの展示会のきっかけというのは?

森永 八代市から車で南方に40分程の所にある人吉市の魚座民藝店で私が展示会をしていて、それでミックさんも私のことを知っていてくれて。私がミックさんを訪れたことから仕事の話は進んだね。

ー森永さんの作風を先ほどノスタルジーと言いましたが、具体的には淡い色使いと少し厚みのあるガラスによるリラックスした造形が特徴です。

森永 私はそもそも、琉球ガラスのゆるさが好きで吹きガラスを始めたんだよね。琉球ガラスって、太平洋戦争後に米軍基地で捨てられたコーラやビールの空き瓶を熔かして再生し始めたのが発祥でしょ?デザインは、米軍の人たちがアメリカで育った家庭の中にあったものを再現してほしいということで、たとえば、コンポート、栓付瓶……そのイメージを沖縄の人たちに伝えて作ってもらったのがはじまりでね。その頃の彼らの家庭にあったのものは、アーリーアメリカンのデザインが多いんだよね。ちょっとバタ臭い、けど洒落ている……赤毛のアンの世界に出てくるようなね。そのイメージをもとに、沖縄のガラス職人となる人たちは作り始めて、次第に琉球ガラスとして定着してね。自分が活動を始めた頃には「現代の名工」にも選ばれた稲嶺盛吉さんが人気で、稲嶺さんにも影響されながら作ってきたのだけど……今の琉球ガラスは観光客向けのお土産品として発展・維持しているから、独自性では自分が目指している吹きガラスではないよね。ただ、泡ガラスと琉球ガラスの始まりのプロセスには、今もとても惹かれているかな。

ーコップやコンポートなどの定番のガラス作品で、森永さんの中での変化はありますか。

森永 形の変化だと、少しずつシンプルになっていっているね。単純な分難しいのだけど、その分作るのが面白いなと感じるようになったね。というのも、昔はシンプルなモノを少し斜に構えて見ていたのね。偶然性があって面白味のある作品の方が上だと思っていて。最近ミックさんで手に取った本の内容に感銘を受けたのだけど、その本では日本では民藝品の評価が高くて、たとえば焼き物だと窯変や偶然が生み出す美を尊ぶけど、中国だと景徳鎮のようなきちっとしたシンメトリーをまず作れる能力を評価するし、そうあるべきだということを主張しているのね。文化や時代の違いもあるけど、美しいものを作るときにはまずきちっとしたものを作れないとだめだっていうことが力説していて、「その通りだな」と思って。長いこと作っていると、シンプルなモノも偶然性のあるモノも、上も下もないんだなということに最近わかってね。どこか斜に構えるかよりは、まずきちっときれいなものを作ろう、というのが近年の心境面での変化かな。

ー制作周辺の話ですが、どのガラス作家と話しても燃料費の高騰と不安定さは悩みの種になっています。

森永 まず生活の方で、電力会社は新電力のグリーン電力に変えたね。制作面では、将来は自家発電による吹きガラス制作の可能性も探していて。例えば、田舎に借りている家の近くに2メートルぐらいの滝があるから、それで小水力発電を出来たらな、って。工房の窯は灯油とガスで焚いているのだけど、将来的には電気炉に変えた方が良いね。あと田舎に住んでいるからこそ、日常生活や制作で使うインフラは自分たちで何とかしないといけないな、という危機感があるよ。

ー自分たちで何とかしないといけないという考えに至ったのは?

森永 たとえば都市型生活にあまりに慣れすぎると、ガス・電気・上下水道、そういったインフラは「あって当然」ってなると思うんだよね。そして大地震や災害が起きてなかなか回復しないと、行政は政治家は一体何やってんだって、市民は怒り出すでしょ。都会暮らしも便利で良いことも多いのだろうけど、最終的には自分たちで何とかしないけない。そういう考えに至ったのは、私の場合は地元に原発があったからだね。原発が出来た20代の頃は無関心だったんだけど、広島での修行を終えて結婚して、帰郷して子どもも出来て少しは(原発に)関心も生まれて。市内の図書館に行ってみると、一棚分の原発関連本があって手当たり次第読んで少しは実態がわかりかけてね。そうこうしているうちに福島第2原発事故が起こって、この国の色んな事があぶり出されたわけでしょ?それ以来、本当に自分たちで何とかしてかないといけないな、って。自分の場合は工芸品だから作品のなかで姿勢を示すことはないけど、さっき言ったように生活と制作の範囲内ではエネルギーの生み出し方・使い方を変えていかないと、と思っているよ。あと、田舎に家を借りているのは、二人の子どもを田舎の学校に通わせたいからなのだけど、田舎の行事ごとにも必ず参加するようになったね。最近だと鬼火焚があって、関西だと「どんど焼」って言うのかな。これからだと梅が咲く頃には梅林で有名な天神様に近所の子どもたちを連れて出掛けるとかね。

ー過去の森永さんですと、そういうイベントには参加されなさそうですよね。

森永 そうでしょ。集団行動が苦手だからね(笑)。でも、借家の周辺の人たちとは、みんな顔見知りになったし大人や子どもたちの性格も覚えるようになった。最終的には地域のコミュニティの力が必要不可欠ということは感じていて……面倒なことも当然あるのだけど、昔の日本のご近所付き合いや風景ってこういう感じだったのかな。

ーその地元・鹿児島とは別に、長年全国で展示会活動をされていますが、成果の変化は感じていますか。

森永 やっぱり、大型作品は売れにくくなっているような気はするね。5,6個のセットで出ていたものが、2,3個ずつでしか出なくなったり厳しさは毎年感じているね。でも、言い訳していても始まらないし、そういった状況だけど、今後は色の組み合わせ、色の階調を増やしていきたいね。階調を出すのは難しいけど、その分面白いからね。時代的にはシンプル基調が主流になって、私も造形ではそれを少しは取り入れているけど、(単色の方が)色のコントロールや管理は容易なんだろうね。ただ、あまりに透明ガラスや薄手のものばかりだと、作っている人たちも飽きてくるんじゃないのかな。色の組み合わせでは、時代には逆行しているけど、人がやらないことを出来るだけやりたいね。ところで、ヒロ画廊さんの案内状の表紙に使えそうな良い作品が昨日出来たんだけど、割っちゃったんだよね(笑)。もうね、良いなぁと思った作品は作っていることに集中して、扱うときに気が抜けちゃってね……。ほら、プロ野球でノーヒットノーランがかかった9回で、ピッチャーがヒットを打たれてみんなウワーッ!?てなるじゃない?「よし、出来た!」って思ったら、手からポロッと滑ったりして……。

ー(笑)。失礼なんですけど、いつも自然体な森永さんでも、緊張されるんですね。

森永 昔はもっと緊張してたよ。それこそ若い頃は青筋を立てて、朝から晩まで工房で作ってたからね。もう少し年をとれば、その緊張も無くなるんだろうけど……最近になってかな、肩の力が抜け始めたのは。

珈琲と画廊 珈琲店ミック
〒866-0831 熊本県八代市萩原町1-2-7 電話番号:0965-32-2261 営業時間:9:00~19:30(L.O19:00) 定休日 :水曜日 アクセス:八代駅から徒歩1分 駐車場 :14台  席 数 :60人

[略歴]
森永 豊(もりなが ゆたか)
1961 鹿児島県川内市(現薩摩川内市)生まれ
1994 東京ガラス工芸研究所パートドヴェール科を卒業
1994 北海道立工業試験場野幌分場に於いて研修
1995 広島県福山市「グラスヒュッテ」に於いて舩木倭帆氏に師事
2000 薩摩川内市に築炉

真鍋井蛙 書画篆刻展

2018年1月12日[金]ー 1月28日[日]
11:00am -6:00pm

[略歴]
真鍋 井蛙(まなべ せいあ)
1955(昭和30)年、香川県生まれ。
奈良教育大学で、篆刻界の第一人者・梅舒適氏に出会い師事。
現在、日本篆刻家協会副理事長、読売書法会理事、日展会友、日本書芸院理事、中国西泠印社名誉社員。
[著書]
『ほれば印です』(芸術新聞社)、『超かんたん篆刻』(同)、
『来楚生篆刻秘法』(二玄社)、『篆刻般若心経』(三圭社)、
『はじめての篆刻入門』(淡交社)、『もうひとりの熊谷守一』(里文出版)など。