ギャラリー日記

□2022年1月11日(火) 真鍋井蛙展
謹んで新春のご祝詞を申し上げます。
 昨年までの世情では、現実離れしたことが次々と起こっては、日々のめまぐるしい変化そのものが日常化した。2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延、それに伴うリモートワークの推進や会議・会食の縮小。 

 他方で、二刀流・大谷翔平選手という漫画やドラマを超越した日本人メジャーリーガーの出現に勇気づけられ、関西の自転車・ゲーム製造業の業績が絶好調なように、三密を回避できるアクティビティや家時間の充実など、閉塞感が漂う中でも、人々はエンターテイメントをお求めになられた。
 そんな中、真鍋井蛙先生におかれては、コンスタントに作品を制作・発表する姿勢を強く保たれている。わが国最大・最高水準の総合美術展である日展において、2018年に引き続き、昨年秋にも日展の特選を受賞され、王道を歩まれる姿勢はひとつも崩されていない。 
 このたびの真鍋井蛙展においても、みなさまのご高覧を賜りますようどうぞよろしくお願い申し上げます。

□2021年12月18日(土) 坪内好子展
 坪内好子の作品といえば、船・月夜がモチーフとなって、幻想・叙情的な心情にしてくれる。それでいて、エッチングでの細かい描写、琳派のような平面的で大胆な金箔の貼り合わせが特徴的だ。
古色を帯びた坪内の作品には、ブラウンやシルバーのアンティーク額もよく似合う。美術品としてはもちろんのこと、インテリアとしても飾り付けた空間に品の良い華を添える精度を誇っている。
 彼女のキャリアは、東京に生まれ、女子美術大学を卒業。その後、百貨店の「期待の新人作家」大賞展・買上賞を受賞されるなど、作家として着実に人気を獲得しつつあるなか環境の変化を求め、2006年にスロヴァキアに留学する。現地では国際的に著名な絵本作家ドゥシャン・カーライに師事し、より物語性の強い作風が色濃くなる。
 こういった彼女の作家としての強さは、現状に満足せず、自分を常に更新している点にある。昨今は、関東・関西の一部のデパートでの個展が、かつてなく盛況となり、大輪の輝きを今放とうとしている。
 ヒロ画廊において坪内の作品を求められる方々も、強い風や静かな時間を日常に求めて、希望があふれるようにコレクションされる人々が目立つ。

□2021年11月20日(土) 芸術は破壊の集積である
 池田満寿夫展が今日からはじまった。「エーゲ海に捧ぐ」で芥川賞を受賞しているからか、辛うじて「国語の便覧かなにかで名前を見たかもしれない」という程度で、平成生まれだと池田満寿男のことはなかなか知らないという。
 池田の作品を眺めると、官能的だったり物憂げな女性が目立つ。が、案内状に掲載している作品のように空の主題も多く、どこかに爽やかさが点在している。この清々しさはどこから発想しているのか。エッセイなどを読み進めていると、「『芸術は破壊の集積である』私はピカソのこの言葉が好きだ。」(「私のピカソ 私のゴッホ」中公文庫・1987)との一文で正鵠を得た。画家として、小説家・エッセイスト、映画監督、陶芸家として、常に今ある自分を壊しては、終生新しい分野に挑戦し続けた池田。彼の爽やかさは、新しい風を取り入れ続けていたからかもしれない。今回はブロンズ作品を含めて、稀少な版画作品など30点を展示している。

□2021年11月11日(木) 彫刻の彫刻性は口ではいえない
 今回の個展ポスターには「近代彫刻の血脈、ここにあり。」とキャッチコピーを銘打っている。それは橋本康彦の師匠・澤田政廣が文化勲章受章者であり、その師匠・山本瑞雲は高村光雲の高弟であり、橋本は高村光雲の玄孫(やしゃご)弟子にあたるからだ。
 日本の近代彫刻の伝統性を踏襲した橋本の作品には、手に取る人・鑑賞する人をうっとりとさせるエッセンスが随所に詰め込まれている。さらに、伝統性を継ぐだけでなく、現代性・社会性を持たせて、見るものをグッと考え込ませ、笑みをもたらせる。技術もプロなら、エンターテイナーとしてもプロである。思想家・吉本隆明の著書「高村光太郎」(講談社・1991)で、高村は偉大な彫刻家であり、複雑な葛藤を抱き続けた父・光雲との親子関係の回想で「彫刻の彫刻性は口ではいえない。ほんとうに惹きこまれるとどんな他の芸術にもないような恍惚感をおぼえる」という述懐を残している。橋本の彫刻作品を見るたびに、その通りだと思う。

□2021年10月18日(月) Natts
 9月上旬、南海電気鉄道が発行している沿線情報誌「Natts」の女性のデザイナー、カメラマンが取材に来て下さった。10月号の特集が「南海沿線 de アート!」のためである。https://otent-nankai.jp/natts 南海電鉄も、沿線情報の充実を図ることで、利用者の乗車促進を常に促している。
 ヒロ画廊も、電車で来られる方も少なくない。学文路に来られた際は、学文路天満宮をおすすめしている。

□2021年10月8日(金) 私は始まったところです
 石彫家・近持イオリ展を開催している。今回はメディアからの取材依頼も多く、掲載記事をご覧頂いた方のご来場も多い。
 近持は、今回の案内状の末文に「まだまだ本当に、私は始まったところです」と語っている。還暦を過ぎた男がこのように語ると「大丈夫か」「若いなぁ」と思う方も多いと思う。しかし、この青臭ささが近持イオリという作家の最大の魅力だと思う。特段、作家然として高所から話すわけでもなく、下から下から突き上げるような、地に足のついた語り口で自分の作品について触れられる。
 一方で、作品はキャリア40年の石彫家として、余裕がある。くにたちアートビエンナーレ2018大賞を受賞(http://kunitachibiennale.jp/bien2018/?page_id=1557)されてから、制作スタイルを「Earth Vibration」シリーズにほぼ統一している。大理石の原石であるトラバーチンを主材として、パステル調の縞模様をメインにリラックスした作品群である。今回のメイン作品である高さ約2メートルの「Earth Vibration」は、気品と生命力がほどよく混ざり合って、隆盛を願う企業に新たに所蔵されても全くおかしくない。
 初日は、近持がアートディレクションを務める株式会社関ヶ原製作所の矢橋昭三郎相談役も岐阜よりお越しになられた。彼への強い追い風が吹いている。

□2021年9月19日(日) 今村由男展
 昨日から今村由男展がはじまった。今村氏は、日本における銅版画の第一人者である中林忠良(1937- ,東京芸術大学名誉教授)に私淑し、独学で絵画を学んだ。ヒロ画廊の過去のインタビューでも語っているように美術学校は出られていない。https://hiro-gallery.com/interview/yoshioimamura/ 作家業と有限会社今村由男デザイン室の経営の二刀流が30代半ばまで続き、篠田桃紅(1913-2021)などを取り扱う東京都のトールマンコレクションに見いだされ、作家としてのキャリアを徐々に確立された。一般的な美術家が美術学校で培う技量やネットワークといった部分は、国際展や版画展への精力的な出展や行動力・制作力で補われている。
 今村氏のこういったキャリアは「画家はこうでないといけない」という概念を崩してくれる。それは私たち画廊にとっても「画廊だから、こうでないといけない」という凝り固まったイメージを崩して、刺激を与えてくれる。

□2021年9月5日(日) 川野恭和展
 9月4日から始まった、川野恭和展が盛況だ。川野氏は瀧田項一に師事、その瀧田は柳宗悦やバーナード・リーチと交流のあった濱田庄司に師事しているため、氏も歴とした民藝の思想を繋がれている。清廉とした白磁と落ち着きのあるルリ色の磁器に、温かみのある鎬や面取文様を施して、日常づかいの器作りに没頭されている。
 氏の作品を画廊で初めてご覧になられる方々からは「作家はかなり若い方なのですか」と問われることも多い。氏の年齢は現在72歳であるが、感性自体が元来瑞々しいのかもしれない。今では優秀なご息女方がプロモーションにもかかわり、ウェブ上でも新たな展開をされている。
 永きにわたって紹介し続けたい作家の1人だ。

□2021年8月2日(月) 牲川にえかわ英雄先生
 展示会は9月4日からの川野恭和展まで夏季休廊中だが、諸々の画廊業務に日々追われている。
 額装のご依頼があり、故・ 牲川にえかわ英雄先生(1905 和歌山県橋本市橋本町に生まれる、1932 東京美術学校(現・東京芸術大学)西洋画科卒業)の30号の遺作に再額装を施し、本日納品に至る。依頼主の女性は「空間が生き返った」と大いに昂奮され、作品も空間も何度でも新しく生まれ変わっていいと思えた時間でした。