橋本康彦

—現在、大阪府・千早赤阪村で生活と制作をされている橋本さんは、お若い頃に高村光雲の孫弟子・澤田政廣さんに弟子入りされています。

橋本 20代の頃は、芸大受験の為に浪人したり、違う仕事に就いたりして、東京にいました。師匠となる澤田政廣に出会い、住み込みの修行生活に入ったのが25歳のときです。師匠は、私が入門した当時で84歳で、すでに文化勲章も受章されて当代の木彫の第一人者で、1尺300万位で仏像を売られていたと記憶しています。

—「住み込み修行」というのが、想像つきません。

橋本 徒弟制度のようなものですが、最近は耳にしないですよね。休みは月に2日だけで、給料も無いに等しくて……現代では耐えられないと思います。毎日、師匠が起きる前に起きて静かに支度をして、師匠のノミを研いでおいて、粘土を耳たぶの柔らかさまで捏(こ)ねておくとかね。気遣いは大変でしたが、今思うと濃密な時間で、5年間の修行はとても勉強になって面白かったです。その後、30歳になって結婚を機に住み込みから卒業し、妻が妊娠したこともあって、一旦は福島県に戻り、東京の師匠のもとまで通って仕事をし、仕事をもらっては地元で制作をして東京に作品を送るといった、そういう生活でした。

—その後、国際交流基金の支援で、アメリカに渡られています。

橋本 澤田一門で独立して山梨で仕事をしていた先輩から「10メートルのお不動様を作ろう、それもアメリカで」と提案があり、まず私たち家族が渡米して、友人を介して新妻實先生(彫刻家・1930年 東京都生まれ。1955年 東京芸術大学彫刻科卒業 コロンビア大学助教授など歴任)と知り合いました。「日本の伝統文化を紹介するために、お不動様を制作したい。けれども、作る場所が無い」と伝えていると、新妻さんを介してメリーランド美術大学のフレッド・ラザルス学長が制作スペースとして大学内の一部を、スポーツ会社「HEAD」のハワード・ヘッド社長はカナダの上質なイエローシダーを提供してもらうなど追い風も吹きました。

—苦心されたこともかなり多かったのではないでしょうか。

橋本 他のスタッフ2人は日本に行ったり来たりでしたので、1年で作るつもりが3年にずれ込んだり、どうしても私1人で彫る時間が長くなりました。、納品先は、ニュージャージー州にあるベクトン・ディッキンソン社という医療機器の会社で、本社ビルのメインフロアに設置してもらえました。医療機器の会社として、人間と自然の調和を示す東洋的な作品を置きたかったようです。

—帰国後の生活と制作というのは?

橋本 帰国後は地縁は全く無かったのですが、福島県の知人の紹介と妻の提案もあって京都・西陣の長屋に住むようになりました。京都御所まで徒歩5分の、楽しい場所でした。

—西陣のような街中で彫刻の制作スペースを確保するのは容易ではなさそうですが……。

橋本 妻が通い始めた柳田宗葩(そうは)先生の茶道教室を通じて、織屋の奥さまから使っていない工場を制作スペースとして紹介してもらいました。そこから、京都での生活と制作の全てが始まりました。ただ、移住して10年目に、借りていた西陣織の工場の制作スペースも閉鎖になるとのことで、急きょ引っ越し先を探すことになりました。千早赤阪村には、兵庫県西宮市の画商さんを通じて、古民家に住んで15年になります。おかげさまで村で制作が出来て、知り合いも徐々に増えてきて、一昨年はヒロ画廊で、去年は10年ぶりに阪急うめだでの個展も開催してもらいました。

—お話しをうかがって、ひとつひとつの出会いを大切にされているように感じました。

橋本 今思うと、みんなご縁です。妻も含めて、自然に身を任せて直感で生きるタイプだと思っています。狩猟民族じゃないですが、一つの場所に留まり続けるタイプではないですね。今後も、千早赤阪村からどこかに移るかもしれません。


河鍋暁斎より「猫又」 16 x 21 x 34 cm クスノキ・顔彩・金箔

[略歴]
橋本康彦(はしもと・やすひこ)
1954年(昭和29年) 福島県いわき市に生まれる
1979年(昭和54年) 澤田政廣 に師事 高村光雲一門となる
1980年(昭和55年) 日展・日彫展入選
1984年(昭和59年) 日彫賞受賞
1990年(平成2年)  メリーランド美術大学客員芸術家(国際交流基金人物交流)、不動明王立像建立(ベクトン・ディッキンソン本社設置)(~1992年)
1994年(平成6年)  新妻實からの継承展Ⅰ(山梨県立美術館ほか)、僧形文殊菩薩像建立(盛永宗興老師発願 大珠院ウェスト安置)
1996年(平成8年)  アメリカ・カービングスタジオ客員講師、新妻實からの継承展Ⅱ(関ヶ原マーブルクラフト)
1999年(平成11年) 阪急百貨店梅田本店個展(2001年、2003年開催)
2000年(平成12年) 石田梅岩像建立(京都府亀岡市)
2001年(平成13年) 東急百貨店渋谷本店個展
2005年(平成17年) おおつき画廊個展(福島県福島市)
2007年(平成19年) おおつき画廊個展、フットクリエイト個展(京都)、彫刻シンポジウム(関ヶ原)
2008年(平成20年) いわき市石炭化石館個展(いわき市)第23回国民文化祭茨城県実行委員会会長賞受賞
2017年(平成29年) ヒロ画廊(和歌山)個展
2018年(平成30年) 阪急百貨店うめだ本店 個展